非動脈性前部虚血性視神経症(NAION)とは
虚血性視神経症という目の病気があります。虚血性視神経症は、わかりやすく言うといわば眼の脳梗塞、心筋梗塞です。視神経へ繋がる血管が炎症などが原因で障害され虚血となり、視神経の機能が障害されることで視力低下や視野欠損が生じます。 症状は突然かつ急激に起こり、多くは片眼性です。虚血性視神経症は動脈炎性と非動脈炎性に分けられます。動脈炎性虚血性視神経症は炎症により血管が閉塞することで発症します。側頭動脈炎や多発性筋炎といった膠原病、自己免疫疾患に合併することが多いとされています。
非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION:non-arteritic anterior ischemic optic neuropathy 以下NAION)は、中年期の50才以上に多く発症し、糖尿病、高血圧、動脈硬化などがリスク要因となります。こうした基礎疾患がある場合、視神経を栄養する動脈の狭細化を招くため発症のリスクを高めることになりますが、実際の発症機序や原因は未だ不明です。
バイアグラ、レビトラ、シアリスとNAION
「薬剤との因果関係は明らかではない」という前置きはあるものの、ED治療薬であるバイアグラ服用後36時間以内にNAIONを発症した症例が2005年に報告されていました。
Journal of Neuro-Ophthalmology.25(1):9-13.(2005)
2015年になって、バイアグラだけではなく、レビトラ、シアリスにおいてもNAIONを発症するリスクがあるという論文が発表されました。報告によると、これらのED治療薬(PDE5阻害薬)を服用してから半減期の5倍の時間が経過するまでは、NAIONを発症するリスクが約2倍に高まる、と報告されています。ED治療薬の服用でNAIONを発症した患者の多くは、発症の危険因子である年齢(50歳以上)、糖尿病、高血圧、冠動脈障害、高脂血症、喫煙等を有していたとのことです。
Jounal of Sexual Medicine.12(1):139,(2015)
「半減期の5倍の時間」と言われてもピンとこないと思いますので、以下にNAION発症に注意すべき具体的な時間を列挙します。
- バイアグラ→約16時間
- レビトラ →約1日
- シアリス →約3日
NAION発症の危険因子を有する方は念のため注意を
ED治療薬服用でNAIONを発症する可能性があることをお話してきましたが、実際はどの程度因果関係があるのか疑問が残るところではあります。というのも、NAIONの危険因子はすべてEDの危険因子でもあるため、ED治療薬の服用がNAIONを引き起こしたというより、危険因子を共有している人がNAIONを発症したときにたまたまED治療薬を飲んでいた、という可能性もあるからです。そもそもNAIONの発症機序や原因自体がいまだ不明なので、ED治療薬が生理学的な機序で NAIONを引き起こしているかどうかも全くわかりません。
とはいえ、このような報告を受けてED治療薬の添付文章にも注意喚起の文言が追加されていますので、50歳以上の方で糖尿病、高血圧、冠動脈障害、高脂血症などの既往がある方がED治療薬を服用する場合は念のため急激な視力低下、視野欠損等のNAIONの症状に注意が必要です。