リピトールのED改善作用の研究データ
脂質異常症改善薬であるリピトールにED(勃起不全)改善効果があるとの報告がありました。高脂血症になると動脈硬化から血管が狭窄、閉塞し、進行すると狭心症、心筋梗塞、脳梗塞をもたらします。それは細い血管から起き易くなり血管性EDも起こしていきます。この報告ではリピトールのED改善効果をシアリス(タダラフィル)と比較して評価しています。
120人の中等度以上の症状を持つED患者に対してリピトール10mg毎日内服群、シアリス20mg内服群、内服無し群に分け調査しています。開始時と3ヶ月後にテストステロン、コレステロール、IIEFスコア(勃起機能検査)、陰茎腫大(NPT)テストで評価しています。
IIEFテストではシアリス群が最も改善を示しています。次がリピトール群で、リピトール群も内服していないグループと比較して有意差をもってスコアが上昇していました。それはNPTテストでも同様で、改善度はコレステロール値が高いほど改善度が高かったとのことです。シアリスほどではありませんがリピトールにED改善作用があることが示唆されました。
リピトールなどスタチンとは
リピトールの主成分は「アトルバスタチン」でスタチン系薬剤と言われ、HMG-CoA還元酵素阻害薬と言われる分類の薬剤です。リピトールは世界中で最も処方されている薬剤のひとつです。一部の国ではOTC医薬品としても販売されています。
最初に第一三共製薬のメバロチン(プラバスタチン)が販売されその後リボバス(シンバスタチン)、ローコール(フルバスタチン)、アトルバスタチン(リピトール)、リバロ(ピタバスタチン)、クレストール(ロバスタチン)等すでに多くの製薬会社からスタチンが販売されています。
これらのスタチン系薬剤は心筋梗塞や狭心症等の冠動脈疾患を著名に減少させることが大規模臨床試験において、すでに証明されています。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール、LDL-C)は血管壁に侵入粥状動脈硬化、動脈硬化性プラーク(血管のささくれ)を引き起こすことが知られていますが血液中のLDL-Cが減少するとLDLの血管壁への移行が少なくなることから、粥状動脈硬化、動脈硬化性プラークが減少し冠動脈疾患を減少させます。
スタチンのPleiotrophic effects(多面的効果)
またスタチンはLDL-C低下作用以外の様々な有益な作用が知られており、Pleiotrophic effects(多面的効果)として知られています。血管内皮機能の改善、抗酸化作用やプラークの安定化作用(プラークは表面の薄い膜の中に脂質の塊があり、何かの拍子にこれが破け炎症性物質等が放出され血管を閉塞するがスタチンは膜を厚くし脂質の塊を小さくし破けにくくするとともに、破けたとしても重症度を低下させます。)やプラーク退縮作用、体内の微小な炎症性を抑制することなどが知られています。
スタチンのPleiotrophic effects(多面的効果)
心血管系 | 血管内皮機能の改善 |
- 抗炎症作用
- 抗酸化作用
- 抗凝固作用脳血管系虚血性脳疾患抑制作用
- 認知症抑制効果(アミロイドβ低下作用)骨代謝骨形成促進作用
- 骨粗鬆症抑制効果腫瘍・免疫癌細胞増殖抑制作用
- 免疫応答の抑制
リピトールになぜEDの改善機能があるのか機序はまだ明らかではありませんが、スタチンのPleiotrophic effectsのひとつである血管の内皮細胞の改善機能によるのではないかと推察されます。プラーク退縮作用は一般的には服用後半年~3年程度以降でみられるため、この作用によるものではないでしょう。もしこの研究が長期の研究であればプラーク退縮作用によりリピトール群と内服なし群でED改善効果により差が見られる事が推測できます。
まとめ
ED診療ガイドラインではEDに関して±と評価されているリピトールですが様々な機序を考慮するとEDに関しては有益に働く可能性が高いようです。またPleiotrophic effectsは他のスタチンでも同様に知られておりスタチン類全般で同様の効果があると推測できます。
これらの事からリピトールなどスタチン系の薬剤は血管内皮機能改善効果により短期的なED改善機能を持つことが示唆されます。今後他の試験によるデータの蓄積や長期投与による血管内皮機能改善効果以外のプラーク退縮機能などの働きを研究する必要性があると考えられます。
但しやはりシアリスほどのED改善効果はなく、シアリスなどED治療薬による治療を優先すべきでしょう。動脈硬化による器質性のEDに対してリピトールなどのスタチンが有用である可能性があり、EDで脂質異常を合併している場合はスタチンを服用すべきであると言えます。